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福岡地方裁判所 昭和34年(わ)982号 判決

被告人 瀬戸秋雄

大一二・一・九生 無職

主文

一、被告人を懲役一年に処する。

二、未決勾留日数の中、九〇日を本刑に算入する。

三、訴訟費用は、被告人の負担とする。

理由

第一、罪となるべき事実

被告人は、福岡市内住吉橋附近一帯において、平素から人々に怖れられていたものであるが、同所附近で客待ちをする売春婦から場所代名下に金員を喝取しようと企て

昭和三四年五月一八日頃の午後九時頃、住吉橋附近において、花田銀子を介し、売春婦泉かおる、同三佐和サカヱ、同青木良子、同安達サヨ子、同安田瞳、同林田こと溝上満江、同吉田マサ子、同坂本洋子らに対し、それぞれ「場所代として一人一日五〇円づつ出せ。出さない者は、住吉附近で商売はさせない」といつて、金員を要求し、被告人の平素の言動をよく知つている同女らをして、もしこれに応じないと今後どんな危害を加えられるかも知れないとおそろしがらせ、よつて別紙犯罪表に記載のとおり、昭和三四年五月二〇日頃から同年六月三〇日頃までの間、右住吉橋附近で、同女らからそれぞれ現金(合計七、五五〇円)の交付を受けて、これを喝取したものである。

第二、証拠の標目(略)

第三、前科

被告人は、当裁判所において

(イ)  昭和二九年一一月一六日恐喝罪により懲役一年に、

(ロ)  昭和三一年六月六日恐喝罪により懲役二年六月に、

処せられ、いずれも、当時右各刑の執行を終つたものである。

この事実は、被告人の司法警察員、検察官に対する各供述調書及び前科調書並びに身上調査に関する照会書により認める。

第四、適条

一、各恐喝    刑法第二四九条第一項。

二、累犯加重   〃 第五六条、第五七条、第五九条。

三、併合罪加重  〃 第四五条前段、第四七条、第一〇条、第一四条。

四、未決通算   〃 第二一条。

五、訴訟費用負担 刑訴法第一八一条第一項本文

六、刑法第四五条後段の適用の有無について

被告人は、昭和三四年四月一八日福岡簡易裁判所で銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪により罰金二、〇〇〇円に処せられ(略式命令による。)この裁判は同年五月二三日確定したものである(右略式命令の送達は、同年同月八日である。)ことが、記録上明らかである。

そして、本件犯罪の中、別表犯罪一覧表の番号1の犯罪を取り上げてみると、それは、同年五月二〇日及び翌二一日の犯罪であるから、確定裁判を経た罪の裁判確定前に犯した罪に当ることも、また明らかなところである。従つて、刑法第四五条後段の併合罪に当るのではないかとの疑が起こる。

そもそも、刑法第四五条は、その前段において、裁判が同時に併合して審判される場合を併合罪として規定する。しかし、いろいろの事情により同時に審判されるはずであつて、しかも事実上併合審判の行われない場合もある。同条後段において、「ある罪につき確定裁判ありたる」場合について規定するのは、このためである。その「ある罪」とは、少くとも、かつて「確定裁判を経ざる数罪」として併合審判される法律上の可能性のあつた数罪の中の「ある罪」でなければならない。換言すれば刑法第四五条の前段と後段とは、全く別個のものを規定しているのではない。それは本来併合審判の可能性のある数罪を併合罪として規定するのである。ただ、現実に併合審判が行われる場合とそうでない場合とを区別して規定しているに過ぎないのである。この法理からいえば、刑法第四五条後段で、併合罪とされるものは、さきの確定裁判の際、審判を及ぼし得る時期において犯されたものであることを要するというべきである。従つて、それは遅くとも最終の事実審の判決宣告前のものでなければならない。裁判宣告後、その確定に至る間に犯された犯罪については、刑法第四五条後段の適用はないと解すべきである。この解釈は、刑法第四五条後段の、「その裁判確定前に犯したる罪」という法文とは一応離れる。しかし、これは、立法の際右の法理が十分に考えられなかつたことによるに過ぎないのである。「その確定裁判前に」犯した罪として表現されるべきものであつたのである。つまり、それは、確定裁判の確定の時を標準とすべきではなく、確定裁判の宣告の時を標準とすべきものであると解する。

右の法理は、確定裁判が略式命令によるものであつても、全く同じである。但し、この場合には、判決宣告の時が標準となるのではなく、その謄本の送達の時が標準となる違いが生ずるだけである。(刑事判例評釈集第六巻三七事件小野評釈一四三頁七行―一四四頁終りまで)

このように解するならば、本件については、刑法第四五条後段の適用はないのは、当然である。

以上の理由により主文のとおり判決する。

(裁判官 横地正義)

(別表) 犯罪一覧表

被害者

期間昭和34年

回数

被害額合計

1

泉かおる

5・20及び5・21

一〇〇円

2

三佐和サカエ

5・20― 6・30

一九

一、〇〇〇円

3

青木良子

〃 ― 〃

二一

一、一五〇円

4

安達サヨ子

〃 ― 〃

一九

一、〇五〇円

5

安田瞳

〃 ― 6・25

二一

一、一五〇円

6

林田こと溝上満江

〃 ― 〃

二一

一、一五〇円

7

吉田マサ子

〃 ― 6・17

一八

九〇〇円

8

坂本洋子

〃 ― 6・30

一九

一、〇五〇円

総合計

七、五五〇円

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